[漫画]きっと絶対、世界は悪に満ちている『空が灰色だから』3巻
空が灰色だから 3 (少年チャンピオン・コミックス) (2012/10/05) 阿部 共実 商品詳細を見る |
それって普通でしょ?
「空が灰色だから」の3巻の感想。
今回のイメージカラーは青。これまでの赤、黄よりちょっと爽やかでヤバい雰囲気は薄い・・・?
いやいや、3巻もこれまで通り、多彩で刺激的なエピソードが並びます。
本当にこの漫画は心をえぐってくる。面白いんだけど、テンションあがるタイプのものではないなぁ・・・。しみじみと自分に染み込んで、というか自分が吸い込まれていく感覚。
この作品らしさは1巻から揺るがないですね。過去の更新でも触れていますが。
心ざわめく空の色。レッツ・ガガスバンダス。『空が灰色だから』1巻
傷ついたらハマる、思春期の光と闇。『空が灰色だから』2巻
1話完結オムニバス。今回も特に気に入ったエピソードの個別感想を。
●第26話 世界は悪に満ちている
うわぁ。。これをこの漫画がやるか。というか、この漫画でやるから破壊力が凄いのか。
主人公はマジカルラブファイター・アン。と名乗るニート女子。
高校を中退してからはや5年。今日もぬいぐるみを引きずり町をパトロール。
この設定だけでアイタタなのに、さらに追い詰めてくるんですよ。
「世界は悪に満ちている」そう信じることで救われる。正義を振りかざす、自分の役目が生まれるから。悪が存在するということは彼女の存在理由だから。
けれど尽くパトロールは失敗してしまうのです。
イジメをしている子供達を制裁。でも勘違いで子供達ただ遊んでいただけ。自分の間違いを認めず力技で解決、したと思い込んで自己満足。「妖怪コスプレババア」とか呼ばれている。
見るからにワルそうな不良たちを見かけても、「ここは私の出る幕じゃない」と自分を納得させてスルー。子供には強くでられるのに、怖そうな相手にはこのザマである。
情けなくて弱っちい正義の使者。
世界を信じることができなくなって、勝手な妄想を押し付けている。
おもわず「うわぁ・・・」とひいてしまいそう。この漫画はストレートに悪意やバイオレンスを描くけれど、こういう遠回りな居心地の悪さとか病んだ様子を描くのもすごく上手い。
けれど感動的なのは、最後のパイン入りカレーですよ。
最初はギョッとするかもしれないけど、嫌いな人もいるかもしれないけど。
でも食べてみれば意外とイケるよ。そういうもんだ。世界は意外と懐が深い。
女の子が抱き続けた幻想が、ちょっとずつ現実と溶け始めた。短い話の中ですごく奥行きがあるというか、ドラマの奥深さがあります。これはいいな。大好き。痛みと、安らぎがある。
カレーに入れる食材なんて、よっぽどヘンなもんじゃない限り、だいたい美味しく食べられる気がするな。それはもっと広い意味で考えることができる、というか考えたくなる、美味しさの秘密だ。
●第28話 歩く道
この手の話はお手の物感ありますが、なんでだろう。
夢見がちな思春期の失敗。第28話「世界は悪に満ちている」とは違うようで同じメッセージを届けます。世界は大したことなんてない。
メッセージは同じの「世界は悪に満ちている」「歩く道ですが」ですが、世界をどう捉えるかが違うし、そのせいで真逆のエンディングを迎える。これは面白い関係にあるなぁ。雑誌掲載時には気づかなかったけれど、単行本で一気読みすることで考えがまとまることもあるな。
それとこのオチを見て、この作品の徹底した姿勢を再確認。
徹底的に落すときは落す。容赦がなくて思い切りがいい。・・・落ち込む。
夢が打ち砕かれた瞬間の、どうしようもなくさめた空気が心臓に突き刺さりますわ。ドキッとするというより、鼓動が止まってしまったかのような。音がなくなる瞬間がやってくる。
●第29話 少女の異常な普通
普通ってなに?
誰が決める?
私って普通?それとも異常?
普通かそうじゃないか。周りの人と自分の違いはなにか。誰だって考えたことがあるんじゃないだろうか。ヒトと関係して生活していかなきゃならないなら、当然考えてしまうことだ。
自分のアイデンティティについて頭を悩ませる少年少女はこれまでたくさん登場してきたけど
周囲の人間への敵意とイラ立ちを、ここまでストレートに露にしたのも珍しいかも。
口数少ない女の子が、心の底で友たちへの怒りをバクハツさせている。
その内容は、他人に対する「普通」「異常」のレッテル貼りに関して。自分としては1度か2度ではないくらいに感じたことがあることだけに、このエピソードへは没入した気がする。
この話に限らず、「ああ、この気持ち、1度は経験があるぞ」ってのを、この作品には何度も感じている。
自分を投影して作品を読み込もう、なんて体力のいることいつもはできないけれど、無意識のうちそうなっているなら話は別。そうさせるだけのパワーがその作品にはあるのだから。
鬼の形相になって口汚く不満を吐きちらかす主人公も、後半には息切れしてくるんですよね。そりゃ、心で思っているだけではなにも変わらない。だんだんと心は折れてくる。
まぁ、そこからの逆転が待っていますけど。でも結局この決着だって、数でひねり潰した形なんだよなぁ。内容がアレだったのでスカッとする展開には違いないけれど。
各々の道徳心と世間が認める「普通」は、どう組み合わさって世界のルールになっていくのか。
なんて、いかにも中学生な思考をぐーるぐると楽しんで、この話はおしまいにしよう。
まとまってないけどなぁ。この息苦しさ、ツボです。好きだ!とは言えないけれど・・・!
●第36話 ただ、ひとりでも仲間がほしい
ウヒョオオオオオきたきた!ムリにテンション上げてるけどこれは読むことすらツラい!
この気持ち悪さは過去トップクラス!コミックスの1番最後でこれ持ってくるのか・・・!
「みんな“きょう気”が全然足りないわ(得意気」
きょう気だけが自分の存在理由であり、居場所とする女の子が主人公。
怖がられたり気持ち悪がられたりして嬉しがってる様子。背伸びしている感ありあり。
頭がおかしな人のフリをして特別感を味わいたいってだけ・・・なファッションキチさんかな。
このコミックスのカバーを外したところの描き下ろしマンガも、この娘のなんちゃって狂人さんっぷりを茶化した内容でした。微笑ましいというか、苦々しいというか・・・!
それを踏まえてのあのラストシーン。やり方がヒドいよな。意味不明な日本語からして、正体不明の恐怖がありますし、なにより見た目のインパクトがすごすぎる。
これも「異常」と「普通」の話に繋がるのかも。
途方もない「異常」が出てくれば境界線は歪んで見方もかわる。主人公泣きながら「絶対普通じゃない」とか言ってしまうし。
けれどグロテスクさに隠されているものに目を凝らして見れば、結構切ないものがある、かも。
痛ましいほどの寂しさ。でもそんな想い汲み取ってやれるほど、こちらも冷静じゃいられない。
衝撃的なお話です。
そんな「空が灰色だから」第3巻。
安定しています。こういう作品で安定しているってのは凄いことです。クオリティの維持とか難しそうだし、読む側のハードルも上がっていく一方。でもこの作品はそれ応えていきます。
注意して欲しいのは、この漫画、別にグロやホラーばかりではないということ。
インパクトが凄いのでついついそちらに注目がいってしまいますが、心の奥深くまで届いてしみこむような優しいお話もあります。笑ってしまうコメディや恋愛ものも。
とにかくいろんなストーリーが読める。この欲張りさ、幅広さ、それも大きな魅力です。
そしていろんなストーリーがあるからこそ、次の話がどんなモノになっているのか最後まで読めない緊張感がある。そのあたりは、これまでの単行本感想でも書いてきました。
いやー面白いなぁこの漫画は。万人に勧められるはずもない作品だけれど、いろんな人がこの作品に圧倒されてみてほしいなと思います。好きになるか嫌いになるかわかりませんが、いい読書体験はできそうな。
「心がざわつく」とは本当にこの作品らしいコピーです。4巻でも心ざわつきたい。
『空が灰色だから』3巻 ・・・・・・・・・★★★★
少年少女たちのナイーヴな心を映しだす、光と影の思春期コミック。
Comment
コメントの投稿
Track Back
TB URL