[本]いじらしくも切ない、それぞれの想い。 『イヴの時間』漫画版2巻
イヴの時間(2) (ヤングガンガンコミックス) (2011/07/25) 吉浦 康裕、太田 優姫 他 商品詳細を見る |
"いらない”って 言われちゃった・・・
吉浦康裕監督のオリジナルアニメ作品「イヴの時間」のコミカライズ第2巻。
ネット公開され話題になり、昨年春には劇場版も公開された原作の漫画化ですが
これがまたとてもいい漫画に仕上がっていて、かなりのお気に入りなのです。
アニメ版(小説版は未読ですが)には見受けられなかったシーンがいくつも追加されていて、アニメ版が好きな人にはもちろんオススメしたいですし、漫画そのものとして読み応えあります。
繊細なタッチで描かれる、人間とアンドロイドの物語。
この巻、とくに切なさが染みるシーンが多かったですね。しかしアンドロイド・サミィと主人公の実の姉・ナオコさんが可愛くて身悶えたのもまた事実!では感想。
作品のあらすじや世界観に関してはアニメ公式サイトが分かりやすいのでどうぞ→HP
この漫画版1巻の感想も以前書きましたので、よければそちらも。→隠された想いが胸を打つ・・・アンドロイドと人間の切なく暖かな未来。 『イヴの時間』1巻
と、誘導ばかりしてしまってなんだかなという感じではありますが・・・。
さて、1巻から10か月ぶりと結構久しぶりの発売になったこの2巻。
世界観の説明もあらかた済み、いよいよ人間とアンドロイドの関係に深くもぐっていく内容となっています。安らいだりニヤニヤしたりもすれば、猛烈に切なくさせられたり、たっぷりと作品の世界観に浸ることができる充実した内容。どんどん面白くなってきてますね!
読んで気になった部分を個別取り上げていきたいと思います。
2人の距離感は、1巻から引き続きゆっくりと、確実に近づいてきています。・リクオとアンドロイド・サミィの関係性。
自分がそうだとは思わないにしても、人間とアンドロイドの間で恋愛はできるのか考えてみたり、サミィのためを思って自分から手伝いを願い出たり。
「ドリ系」とバカにさせても、リクオはサミィを人間のように心がある存在だと、ある程度認めた上でコミュニケーションをとろうとしています。喜ばしい・・・かどうかは人によりますが、間違いなく彼は変わってきているのでしょう。
また、リクオからの優しさに触れ、つい笑顔を零してしまったサミィ。
なんて優しい笑顔なんでしょうか。ニヤニヤしちゃうじゃないですか!
しかし「イヴの時間」の外で感情を表に出してしまったのは、彼女の心のゆるみかな。
アンドロイドである以上、彼女がそうしてしまったことは明らかな失敗であるわけで。
その後、自分に差しのべられたリクオの手をあえてとらなかったのは、直前自分が浮かべた微笑みを、人間との距離を測り間違えたものだと反省したせいなのだと思います。
1度はお互いに近づきつつあった距離は、今度はまた少しずつ離れていく方向へ……。
意地はってはサミィを傷つけてしまうリクオには、もどかしさ炸裂というものです。
「イヴの時間」にてサミィが明かす本音を聞いてしまっては、さらに切なくなってしまいます。悲しげに「"いらない”って 言われちゃった・・・」とかもう…っ。ぐあー。
リクオとサミィのイベントにも心引き寄せられるのですが、・弟と姉
追随ずるエピソードとして、リクオの実の姉・ナオコのエピソードも今回大きな見所!
これまで彼女は「ドリ系」をバカにする、今時の若い女性という描かれ方で
家族という立ち位置にありながら、読者として彼女を好意的には受け止められませんでした。彼女の考えこそが「普通」なのですが、しょっちゅう辛辣な言葉を投げかけてきましたしね。
そんな彼女が「お姉ちゃん」としての不満を吐き出すのがこの2巻。
「…じゃあ特別に お姉ちゃんが熱いコーヒ―――」
人間の生活の手間をはぶくアンドロイドの仕事。
けれど、『あえて手間をかけたい』、そんな瞬間もあったりするのが面倒な人間。
誰かのためになにかをする、温かみを与えてあげたい時があるのです。
けれど普段アンドロイドに任せきりにできるシステムに甘えているせいで、いざというとき何もできない。家の中のことですら把握しきれていない。きまぐれだけど、弟に優しくしてあげることも叶わない。
それはアンドロイドの仕事を「私がやるからいいよ」を遮ってまで行動をおこすことができない中途半端な意志のせいでもあるのですが、家族間のコミュニケーションのきっかけを奪ってしまっているのは確か。普通の人間はアンドロイドを「家族」とは思っていないのだから。
そうか、ナオコもたまには「お姉ちゃん」になりたかったんだ。甘えられたかったんだ。
気が向いた時にでも、お姉ちゃんらしく振舞いたかった。でもそうし辛い不器用さ。
はぁーかわいい、かわいいですねえナオコお姉ちゃん!しかし同時に考えさせられます。
外見的にはたしかに性別・年代ともにサミィと1番近いのはナオコ姉なので、意識してしまうことはあったのでしょう。彼女ばかりが家族の中で必要とされることへのストレスもあったのかも。
まぁ彼女がサミィのように色々命令されても、きっとあまりやってくれないでしょうけど。最初から何もやらなくてもいいと突き離されてると、期待されてないようで癪、とか。
舞台となる未来社会の問題点を浮き彫りにしつつ、切なくなったりニヤニヤしてしまったり、とても素敵なエピソードでした。しかもアニメには無かった追加エピソードです。
これは読めて嬉しかったですね。すごく面白かった。姉ラブ迸る。
そしてナオコ姉の話からも繋がり、リクオとも関係するのですが・居場所を奪われる恐怖。
この社会に生きる人々は、常に「アンドロイドに居場所を奪われること」を恐れているようです。
ナオコは「姉」のポジションをとられたように思いストレスを感じていましたし
リクオがピアノをやめてしまったのは、大したものではないと高をくくっていたアンドロイドのピアノに感動してしまった自分に戸惑い、許せなかったから。
外見は人間そっくり、人間にはできないことも可能にする能力も持っている。
対等になってしまえば、もしかしたら人間は彼らに劣った存在なのかもしれない…。
だからこそこの社会の人々は人間とアンドロイドの境界線をハッキリさせようとしているし、熾烈なくらいにアンドロイドを人間として扱うことを嫌う。人間の領域を侵されないよう、必死に。
人間が生み出したのに、勝手にプライドを傷つけられて、敵視して、遠ざけて。
そんな社会によって抑圧されているアンドロイドたちの本当の気持ちを思うと…これがまた切なくて仕方ないのです。しんどくなるくらい・・・。
彼らは、少なくとも本作で目立って登場するアンドロイドはみんな、心の底から主人のためになりたいと思ってるし、理解してもっと近づこうとしています。けれど人間の世界は堅苦しいもので。
人間は無意識のうちに、彼らの良心を裏切り続けているのです。心が痛い・・・!
しかし人間としても決して無理にエゴを通しているわけではなく、そうしなければ人間社会のバランスが悪くなってしまうことが分かっているんでしょう。
アンドロイドに心なんて無ければもっと楽なのに・・・。でも心があるからこその、切なくも面白みのあるこの物語か。なんとか、アンドロイドたちとの上手い共存を実現させて欲しいですね。
それにしても、作中ミステリアスに触れられますが、アンドロイドの設計者がなぜ面倒な「心」をアンドロイドにこっそり仕込んだのかも、かなり気になるところです。
そんなこんなで「イヴの時間」コミック版第2巻でした。
全体的に1巻からさらなるパワーアップを遂げた、充実した1冊だと感じました。
アニメ版とはやや異なる少女漫画のような作画も、とても温かみのあるもので好印象!
デジタル度の高いアニメの感じも好きですが、こういうのもまた物語に合いますね。
しかしなにより面白いのが、世界観を補強するオリジナルエピソードたち。
漫画版オリジナル要素がどんどん投入され、そのどれもが面白いとは素晴らしいことです。
派手ではなくとも、キャラクターもそれぞれかわいらしいのも良い。
お姉ちゃんキャラがメインとして複数登場する作品でもあるので、姉スキーな方にも!
本編の空気とはかなり異なるテンションの高さを見せてくれるオマケページも楽しいです。
ややスローペースな刊行の漫画版ですが、じっくりと大切に進めていってくれてとてもうれしい出来。アニメ版第2章と一緒に楽しみ!
『イヴの時間』漫画版2巻 ・・・・・・・・・★★★★
漫画版ならではのオリジナル要素が盛りだくさん。読み応えありました。
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