[本]胸に宿る音の温もり・・・人と音が編み出す物語たち。 『ききみみ図鑑』
これから今月末にかけて発売される単行本のラインナップがたまらない。
僕は、音楽が嫌いだ。
Fellows!にて「真昼に深夜子」連載中の宮田紘次さんの作品。
コミックビーム08年5~12月号に掲載された「ききみみ図鑑」がようやく単行本化。
個人的に凄いピッタリくる漫画を描く作家さんで、本が出てくれて嬉しいです。
ちなみにこの作品で初連載だったようです。
しかしこれまた表紙が好きな感じ・・・!綺麗な色合いですね。
ギター少女が目印のこと単行本、内容も広い意味では音楽漫画です。
様々な「音」をテーマとした、全8話のオムニバス漫画です。
今回はうち4作について。全部取り上げたいけど、それはやり過ぎか。
主人公は生まれつき「音が視える」特殊体質を持つ学生。
日々そこらじゅうに溢れている耳障りな雑音のせいで、彼はいつも世界がおかしな化け物だらけに見えています。うんざりする毎日のせいで、音楽を嫌ってしまう少年。
かつて1度、美しい音の風景を見たからこそ、彼はここまで捻くれてしまっているのかな。
しかしそんな彼にも転機が。
ある日ふと覗きこんだ教室には、ギターを演奏する女の子が。
その音色は、まるで竜のようだった。
(クリック拡大)
彼女との出会いが、主人公を少しだけ変えることになります。
音がキャラクターっぽくビジュアル化されている作品で、画面が非常に賑やか。
同時に主人公の感じる、その音の凄み等も分かりやすいなぁと思います。
音がグルグルと舞っては厚く積み重なり、竜になり主人公を睨むライブシーンとか。
そして24Pというみじかなページ数でしっかりとドラマが広がってからまとまり、先が気になるラストを迎えてくれます。単行本のトップバッターとして完成度の高い短編。
終盤に主人公がかつて心奪われた音の風景が描かれますが、その美しいことと言ったら。
けれど周りからは見えることがおかしいことだと言われ塞ぎこんでしまった。
音楽を嫌ってしまった彼。
けれど、彼は感動を取り戻します。音楽の竜に丸呑みにされてしまいます。
そうだった、音楽ってこんなに楽しいものだったのだ。
音楽への愛に満ちた短編です。エネルギッシュ!
エレベーターに閉じ込められた男性と、その相手をする警備員の女性・・・らしき人。
他愛もない世間話から徐々に話題はおかしな方向へ行き
なにやら色っぽいな雰囲気に・・・これがあれですか、噂に聞くテレフォンなんちゃら。
ちょっとコミカルなシチュエーションの短編です。
この作品は男性と女性とで見えているものが違うのが良いですね。
男性は相手の声しか聞けないから、そこから想像によって女性に心魅かれてゆき
女性は全てが分かってはいるんだけど、男性からの接近にちょっと胸ときめいている。
この2人が再び出会う時、どうなるかを想像するのも面白いなぁ。
絶対合わない2人だけど、なんか勢いに任せて上手く行ってしまいそうでもある!
ラスト、ちょっと照れてるマヤ姉さんの横顔が可愛んだー!
ちょっと面白い、けれどちょっと切ないお話でした。
主人公・律は上手く女子高の雰囲気に馴染めていない生徒。
彼女と生活指導の立花先生の、心の交流を描いた作品です。
「ごきげんよう(キリッ)」「ごきげんよう(キリッ」→友達同士で下品な爆笑 の冒頭の流れは
リアルな女子高の風景を思わせられて、幻想を抱き続ける俺としては泣けてくるでござる。
主人公である律はそんな周囲の様子に違和感を抱いており、体面だけ取り繕っておけば目は付けられないのにあえて反抗的な態度を取ったりします。
彼女自身、心の奥底では淑女への憧れがあるのかな。
だからこそ現実(リアルな女子高)に抵抗感があるように見えます。
そんな彼女をいつも注意する、生活指導の立花先生。
ある夜、律は立花先生と2人きりになるのですが・・・この時の会話がなぁ、なんとも切ない。
時代は移り変わる。取り残され、少女じゃなくなっていく自分。
大人になる喜びもあれば、寂しさもある。
けれど彼女の眼には一瞬、老いた立花先生がいたずらなまなざしをする少女に見えた。
心に沈んだ、少女の面影。
けれどそれは無くしたわけでは無いのかもしれない。
思い出の中に生き続ける、あの頃の自分がいる。
ノスタルジックな読み心地の短編でした。
立花先生が日々抱えている想いは普遍的なものだと思うし、自分にも経験がある。
なんだか年食っちゃったなと、思ってしまう時はあります。(まだ学生なのにね
だからこそ、130Pにはなんだか勇気が貰えたりするのです。
あと普通に若かりし立花さんがミステリアスかわいい。
そして何と言っても最後!
よく見ると、閉じた瞼の向こうに涙が潜んでいるようにも見える。
立花先生があいさつにこだわるのは、母校の伝統を重んじているからというのもあるけど
裏で疎まれていようと、生徒たちと心通わせたいという想いもあるのかな。
なんともグッと来るラスト。この単行本では多分一番好きな作品です。
トリを飾るシリアスな作品で、結構心が痛くなる内容。
物語のモチーフは明らかに「耳なし芳一」ですが、内容はほとんど違います。
生まれつき盲目で、ついに耳まで失ってしまった芳一。
彼を看病してくれた女性は、いつもはあっけらかんと明るくふるまっているが、彼女にもまた傷はある。母を失い、女であるためになることのできない医者を、必死に目指して勉強している。
今はまだ耳は聞こえる。けれどじきに、聞こえなくなるのは間違いない。
この世に生を受けてから一度も見たことないこの世の中を
彼は耳から得る音の情報で想像し、生きてきた。音が彼の世界そのものだった。
音は彼の全てであり、縋るべき唯一のもの。
それがもうすぐ、永遠に失われてしまう―――
『再生』を描く傷だらけの物語。
胸に突き刺さる痛みの数々は、どれもこれも生っぽくて嫌になる。
無駄な努力を続ける医者志望の女性のひたむきな様子は虚しいし
音を失った芳一の眼の前に広がる広大な闇は、本能的な恐怖を誘われる。
彼が何かに突き動かされるように命を絶とうとするシーンは震えてしまった。
むっちゃくちゃ痛い。熱いもやもやが読んでて腹から爆発しそうな感じ。
彼は本当に全てを失ってしまったように見えるから。
音を失い誇りを失い、もはや死に体の芳一。
しかし女性はそんな彼をしっかり抱きしめる。死にたがる彼を叱りつける。
見えなくても聞こえなくても、確かにここに温もりがあるだろうと。
この足で、この身体で、まだしっかり聞こえるはずなんだ。
ある日芳一は空を見上げる。そこには、竜。
光は見えないし音は聞こえない。けれど彼は確かに何かを感じ、空を見上げる。
かつての彼の誇り・・・音の姿を捉える能力は、もう失われたはず。
けれど見えているはずだよな、あの竜の姿。見えているはずなんだ。
まだ生きてるんだから。
前向きな気持ちになれます、が・・・色々凄いエネルギーが詰まった作品だなぁ。
ページの隅々から溢れてくる感情たち。絶望、あるいは希望。
最後にこの作品が置かれることで、単行本としてビシッと締まりがあります。
なんというか、読むのに体力が要る作品だなぁ。でも大好きだ。
ではまとめ。
色々な『音』にスポットライトを当てた作品集。
ジャンルも実に幅広く、楽しく読めるのでは無いでしょうか。
自分が特に好きなのは1、4,5,6,8話。しかしどの短編も味わい深いです。
それと紹介しそこねましたのでここに書きますが、宮田紘次先生と言えば女体描写!
ポップでわりとざっくりしたタッチなのですが、何なんでしょうねこの色気は!
体型ももちろんエロいんですけど、本当に「色気」があるんですよね、表情やしぐさに。
宮田紘次さんの活き活きした女の子、好きだなぁ。
たまらんすな!
あなたが好きな物語と女の子がきっと見つかる一冊です。
『ききみみ図鑑』 ・・・・・・・・・★★★☆
音をテーマにしたオムニバス作品集。色んな音と女の子、そして物語を楽しめます。
ききみみ図鑑 (ビームコミックス) (2010/11/15) 宮田 紘次 商品詳細を見る |
僕は、音楽が嫌いだ。
Fellows!にて「真昼に深夜子」連載中の宮田紘次さんの作品。
コミックビーム08年5~12月号に掲載された「ききみみ図鑑」がようやく単行本化。
個人的に凄いピッタリくる漫画を描く作家さんで、本が出てくれて嬉しいです。
ちなみにこの作品で初連載だったようです。
しかしこれまた表紙が好きな感じ・・・!綺麗な色合いですね。
ギター少女が目印のこと単行本、内容も広い意味では音楽漫画です。
様々な「音」をテーマとした、全8話のオムニバス漫画です。
今回はうち4作について。全部取り上げたいけど、それはやり過ぎか。
最初の作品。表紙はこの作品のキャラクター。『音』は音楽。視える音
主人公は生まれつき「音が視える」特殊体質を持つ学生。
日々そこらじゅうに溢れている耳障りな雑音のせいで、彼はいつも世界がおかしな化け物だらけに見えています。うんざりする毎日のせいで、音楽を嫌ってしまう少年。
かつて1度、美しい音の風景を見たからこそ、彼はここまで捻くれてしまっているのかな。
しかしそんな彼にも転機が。
ある日ふと覗きこんだ教室には、ギターを演奏する女の子が。
その音色は、まるで竜のようだった。
(クリック拡大)
彼女との出会いが、主人公を少しだけ変えることになります。
音がキャラクターっぽくビジュアル化されている作品で、画面が非常に賑やか。
同時に主人公の感じる、その音の凄み等も分かりやすいなぁと思います。
音がグルグルと舞っては厚く積み重なり、竜になり主人公を睨むライブシーンとか。
そして24Pというみじかなページ数でしっかりとドラマが広がってからまとまり、先が気になるラストを迎えてくれます。単行本のトップバッターとして完成度の高い短編。
終盤に主人公がかつて心奪われた音の風景が描かれますが、その美しいことと言ったら。
けれど周りからは見えることがおかしいことだと言われ塞ぎこんでしまった。
音楽を嫌ってしまった彼。
けれど、彼は感動を取り戻します。音楽の竜に丸呑みにされてしまいます。
そうだった、音楽ってこんなに楽しいものだったのだ。
音楽への愛に満ちた短編です。エネルギッシュ!
4つ目。『音』は声。天使の声
エレベーターに閉じ込められた男性と、その相手をする警備員の女性・・・らしき人。
他愛もない世間話から徐々に話題はおかしな方向へ行き
なにやら色っぽいな雰囲気に・・・これがあれですか、噂に聞くテレフォンなんちゃら。
ちょっとコミカルなシチュエーションの短編です。
この作品は男性と女性とで見えているものが違うのが良いですね。
男性は相手の声しか聞けないから、そこから想像によって女性に心魅かれてゆき
女性は全てが分かってはいるんだけど、男性からの接近にちょっと胸ときめいている。
この2人が再び出会う時、どうなるかを想像するのも面白いなぁ。
絶対合わない2人だけど、なんか勢いに任せて上手く行ってしまいそうでもある!
ラスト、ちょっと照れてるマヤ姉さんの横顔が可愛んだー!
ちょっと面白い、けれどちょっと切ないお話でした。
5つ目。『音』は言葉。秘密の合言葉
主人公・律は上手く女子高の雰囲気に馴染めていない生徒。
彼女と生活指導の立花先生の、心の交流を描いた作品です。
「ごきげんよう(キリッ)」「ごきげんよう(キリッ」→友達同士で下品な爆笑 の冒頭の流れは
リアルな女子高の風景を思わせられて、幻想を抱き続ける俺としては泣けてくるでござる。
主人公である律はそんな周囲の様子に違和感を抱いており、体面だけ取り繕っておけば目は付けられないのにあえて反抗的な態度を取ったりします。
彼女自身、心の奥底では淑女への憧れがあるのかな。
だからこそ現実(リアルな女子高)に抵抗感があるように見えます。
そんな彼女をいつも注意する、生活指導の立花先生。
ある夜、律は立花先生と2人きりになるのですが・・・この時の会話がなぁ、なんとも切ない。
時代は移り変わる。取り残され、少女じゃなくなっていく自分。
大人になる喜びもあれば、寂しさもある。
けれど彼女の眼には一瞬、老いた立花先生がいたずらなまなざしをする少女に見えた。
心に沈んだ、少女の面影。
けれどそれは無くしたわけでは無いのかもしれない。
思い出の中に生き続ける、あの頃の自分がいる。
ノスタルジックな読み心地の短編でした。
立花先生が日々抱えている想いは普遍的なものだと思うし、自分にも経験がある。
なんだか年食っちゃったなと、思ってしまう時はあります。(まだ学生なのにね
だからこそ、130Pにはなんだか勇気が貰えたりするのです。
あと普通に若かりし立花さんがミステリアスかわいい。
そして何と言っても最後!
よく見ると、閉じた瞼の向こうに涙が潜んでいるようにも見える。
立花先生があいさつにこだわるのは、母校の伝統を重んじているからというのもあるけど
裏で疎まれていようと、生徒たちと心通わせたいという想いもあるのかな。
なんともグッと来るラスト。この単行本では多分一番好きな作品です。
8つ目。『音』は無。凪の音
トリを飾るシリアスな作品で、結構心が痛くなる内容。
物語のモチーフは明らかに「耳なし芳一」ですが、内容はほとんど違います。
生まれつき盲目で、ついに耳まで失ってしまった芳一。
彼を看病してくれた女性は、いつもはあっけらかんと明るくふるまっているが、彼女にもまた傷はある。母を失い、女であるためになることのできない医者を、必死に目指して勉強している。
今はまだ耳は聞こえる。けれどじきに、聞こえなくなるのは間違いない。
この世に生を受けてから一度も見たことないこの世の中を
彼は耳から得る音の情報で想像し、生きてきた。音が彼の世界そのものだった。
音は彼の全てであり、縋るべき唯一のもの。
それがもうすぐ、永遠に失われてしまう―――
『再生』を描く傷だらけの物語。
胸に突き刺さる痛みの数々は、どれもこれも生っぽくて嫌になる。
無駄な努力を続ける医者志望の女性のひたむきな様子は虚しいし
音を失った芳一の眼の前に広がる広大な闇は、本能的な恐怖を誘われる。
彼が何かに突き動かされるように命を絶とうとするシーンは震えてしまった。
むっちゃくちゃ痛い。熱いもやもやが読んでて腹から爆発しそうな感じ。
彼は本当に全てを失ってしまったように見えるから。
音を失い誇りを失い、もはや死に体の芳一。
しかし女性はそんな彼をしっかり抱きしめる。死にたがる彼を叱りつける。
見えなくても聞こえなくても、確かにここに温もりがあるだろうと。
この足で、この身体で、まだしっかり聞こえるはずなんだ。
ある日芳一は空を見上げる。そこには、竜。
光は見えないし音は聞こえない。けれど彼は確かに何かを感じ、空を見上げる。
かつての彼の誇り・・・音の姿を捉える能力は、もう失われたはず。
けれど見えているはずだよな、あの竜の姿。見えているはずなんだ。
まだ生きてるんだから。
前向きな気持ちになれます、が・・・色々凄いエネルギーが詰まった作品だなぁ。
ページの隅々から溢れてくる感情たち。絶望、あるいは希望。
最後にこの作品が置かれることで、単行本としてビシッと締まりがあります。
なんというか、読むのに体力が要る作品だなぁ。でも大好きだ。
ではまとめ。
色々な『音』にスポットライトを当てた作品集。
ジャンルも実に幅広く、楽しく読めるのでは無いでしょうか。
自分が特に好きなのは1、4,5,6,8話。しかしどの短編も味わい深いです。
それと紹介しそこねましたのでここに書きますが、宮田紘次先生と言えば女体描写!
ポップでわりとざっくりしたタッチなのですが、何なんでしょうねこの色気は!
体型ももちろんエロいんですけど、本当に「色気」があるんですよね、表情やしぐさに。
宮田紘次さんの活き活きした女の子、好きだなぁ。
たまらんすな!
あなたが好きな物語と女の子がきっと見つかる一冊です。
『ききみみ図鑑』 ・・・・・・・・・★★★☆
音をテーマにしたオムニバス作品集。色んな音と女の子、そして物語を楽しめます。
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