[本]左と右の間 地上と空の間 昨日と明日の間 夢と現実の間 『虹ヶ原ホログラフ』
前回の記事との落差がちょっと酷いですな。
今なら僕は 世界を終わらせることだってできるんだ。
はっきりさせない漫画は、自分はあまり好きではありません。
夢オチとか、なんだかはぐらかされた様に、逃げられた様に感じてしまいます。
さてしかし困ったことに、この作品は非常に魅力的なのです。
最後の最後まで、夢とか妄想とか虚像とか、そんなのばかりなのに。
けどこの感情を何かにぶつけたい。その一心。公開オ○ニーもいいとこだ。
この文章打ってる今も、自分が何を書こうとしているのか分かりません。
まぁそんなわけでな酷い漫画に釣られて、俺も酷いテンションで感想書くとします。
この作品の読者を喰らう力は、相当なものです。
まぁ簡単に言っちゃうと、胸糞悪いお話です。
幸福も希望もない、人間のイヤなところしか描いてないような作品。
加えてストーリー自体の読みにくさったらもう無い。
難解、というか意地悪にストーリーを分かりづらくさせているような印象。
時系列も未完のパズルのようなシャッフル感。夢と妄想が入り乱れて真実を覆い隠す。
憤懣と絶望しかない子供たちの世界も凄まじい。
なんて深く暗い世界観だろう。いろんな要素を凄い密度で描いてる。
いろいろ書きたいことあるけど、絞って書かないと記事終われないです…。
表紙にも本編にも、とにかく蝶が飛んで飛び交って飛び散って飛びまくる。
ひたすらに死を匂わせながら。
本来はなんとなく幸せなものの象徴のように描かれる蝶なのに
ここまで黒い感情で読まされることになろうとは…。
醜いもの、絶望するもの、欲望を潜ませるもの…いつも周りには蝶が飛ぶ。
加えて人の死に群がるような様子を見ると、嫌悪感しか感じられない。
けれど、思い出してみたい。
「死」という不吉なイメージを漂わせて、ページ中飛び交い続ける蝶だが
「綺麗過ぎです。」
美しいのだ。
人間は意味も分からずその美しさに魅かれ、つい見つめてしまう。
愚かにも、と付け加えてもいいかもしれない。
心の底にある、全ての死への憧れのような、破滅願望の表れか。
それとも、もっと素直な美的嗜好と捉えるべきか。
それにしたって、死を魅力を感じていることには、間違いないのだけれど。
読者視点で読むから分かるだけで、登場キャラ本人にその気は全くないのが、また。
しかし、というか、だからこそ。
(クリック拡大)
綺麗だとこぼした女が、ラストで蝶を握りつぶしたのが印象的。
彼女の胸にあるのは希望だろうか、諦めだろうか。
前者だと思った人は残念。2ページ後にはそれを否定されるから、ガッカリするといい。
しかしこれは明らかな「選択」だ。何かを知って掴んだエンディングだ。
――――「君はもう 一生ここから出られないのに。」
そう女は告げる。
最後まで嫌なメッセージを叩きつけてくる漫画だなぁ。
逃げ場所もないこの世界で、人間はどう生きればいいのだろうか。
(上の女は、最終的には物語から脱出できているようにも思うが…)
加えて最強はこの言葉。
゛いつまでもお前の寝たふりが通用すると思うなよ"
絶望と向き合え。
強い意志を持て。
世界は永遠に終わらない。
いつまで見ないフリを続けるつもりだ。
嘘だ夢だ妄想だとごまかして、逃げんなよ。
ある意味僅かなメタフィクション的含みを持たせて、物語は幕を閉じる。
同時に醜い現実を突き付けて。
けれど一連のメッセージを受け取ってから、最後のページでひらめく蝶を見ると
「死」以外のイメージが、かすかに訪れるような気がする。
死を超越した、神の存在。
救いもせず見守るだけの、嫌な神様ですが。
そういえば。各話のインタールードで一羽でひらひら舞っていた1羽の蝶が
271ページでは2羽になっております。蝶=有江という証明か。
ここで終わってくれればよかったのに、エピローグであんなことになったから困るんだよなぁ。
結局は同じ男をぐるぐると巡り続けているだけのように思う。
老齢になった自分から、ただ涙を流すだけの、幼き日の自分へ。
この物語の主人公の一人である鈴木君ですが、彼に限って言えば
彼の物語は、完全なる自己完結の世界でのお話でしかないということになる。
けれど、作中唯一と言ってもいい、希望をイメージさせるモチーフであるこの箱。
結局それを開けるシーンは一度も無かったけれど、
「一度だけ魔法を使える」というこの箱は
やはりこの最低な世界を抜け出す、たっ一つの道のようにも思う。
本当に魔法があるかはわからないけれど、その自己暗示で開ける道があるのかも。
けれど11話でのあの見開きが、箱を開けたということを意味するのなら。
結局この話は、終わりのないループだってことなんだろう。
ラストで、鈴木少年に鈴木じいさんが箱を渡す。
「箱を開けるかどうかは君の自由だ」
そしてこう続く。
「強い意志を持ちなさい。君の人生の行き先は、君が決めていいんだよ。」
この作品、各所でちょこちょこと「意思」というワードが入ってきます。
みんな口をそろえて「強い意志」を持て、と主人公に言っています。
けれど、最後まで読む面白いんだなぁこれが。
この作品における「強い意志」とは、必ずしも生を肯定するものではないのだ。
次の鈴木少年は、なにか世界を変えられるだろうか。
きっと、無理だ。
右翼と左翼、2つの蝶のペンダントが漫画にはたびたび登場し
それぞれが本当に様々なルートを辿っていきます。
2つの移動ルートを考察していくだけでも長い記事ができそうなくらいw
けれど巡り巡って、両翼はついに巡りあう。
ここが、この作品を締めくくるのにベストなタイミングだったと個人的には思います。
けれどこの先にエピローグへと続く。
さらなる混乱と絶望を呼ぶ、救いのないエピローグが。
しかしそのエピローグにも、また面白い仕掛けがあるのですね。
右のコマに注目。
本当にさらりと描かれているのが、完成系の蝶のペンダント。
作中で完成系のペンダントが登場するのはこのシーンだけです。
それを胸に下げているのは……なんてのは、読んできた人ならすぐ分かったであろう人物。
なーるほど、なんて軽く言えるものではないのですが
さらりと答えをここで出してくれているのです。
全てのルーツと言っても存在が、ついにここで明かされるのですね。
この狂った世界を作り上げたと言ってもいいその存在。
もちろん、これで全てを解決できたというわけでは決してないのですが
というか不可解な謎を残したままなのですが
それでも、本書で唯一と言っていいほど、爽快なシーンでした。
結論から言って、面白い漫画であるとは思えません。
ただ、ひたすら心に、薄く覆いかぶさるような不快感や、絶望や、その他もろもろのできれば味わいたくない沢山のリアルな感情が、べったり張り付いて取れなくなってしまう。
読んでいて本当に精神がやられてきそうな圧迫感、消失感、閉塞感。
これだけ嫌な読後感は、そうそう味わえるものではありません。
受け入れられるかは読者側の問題。
浅野いにおという漫画家の真髄を見たような感じ。
ダメな人は読みだして3分もせずに「勘弁してくれ」と投げ出すでしょう。
それだけ唯一無二の精神世界を紡いだ力作であると言えます。
ちょっと長くなってしまいましたが結論。
傑作。
これだけ濃密な作品を味わえるのは、幸せなことではないだろうか。
浅野いにおという作家が、漫画界に残した大きな傷痕だと思う。
もちろん、いい意味でだ。
『虹ヶ原ホログラフ』 ………★★★★
ホラーサスペンス×哲学。カッコつけて言うとキッチュな魅力のある作品。
呑みんでも呑みこまれても、危険です。メンタル弱い人には絶対お薦めできません。
読んでいる間、RADWIMPSのバグッバイが脳内で鳴っていたので
やや無理矢理感漂いますが、記事タイトルに歌詞を引用しました。
虹ヶ原 ホログラフ (2006/07/26) 浅野 いにお 商品詳細を見る |
今なら僕は 世界を終わらせることだってできるんだ。
はっきりさせない漫画は、自分はあまり好きではありません。
夢オチとか、なんだかはぐらかされた様に、逃げられた様に感じてしまいます。
さてしかし困ったことに、この作品は非常に魅力的なのです。
最後の最後まで、夢とか妄想とか虚像とか、そんなのばかりなのに。
けどこの感情を何かにぶつけたい。その一心。公開オ○ニーもいいとこだ。
この文章打ってる今も、自分が何を書こうとしているのか分かりません。
まぁそんなわけでな酷い漫画に釣られて、俺も酷いテンションで感想書くとします。
この作品の読者を喰らう力は、相当なものです。
まぁ簡単に言っちゃうと、胸糞悪いお話です。
幸福も希望もない、人間のイヤなところしか描いてないような作品。
加えてストーリー自体の読みにくさったらもう無い。
難解、というか意地悪にストーリーを分かりづらくさせているような印象。
時系列も未完のパズルのようなシャッフル感。夢と妄想が入り乱れて真実を覆い隠す。
憤懣と絶望しかない子供たちの世界も凄まじい。
なんて深く暗い世界観だろう。いろんな要素を凄い密度で描いてる。
いろいろ書きたいことあるけど、絞って書かないと記事終われないです…。
とにかくこの作品の核は、蝶。蝶
表紙にも本編にも、とにかく蝶が飛んで飛び交って飛び散って飛びまくる。
ひたすらに死を匂わせながら。
本来はなんとなく幸せなものの象徴のように描かれる蝶なのに
ここまで黒い感情で読まされることになろうとは…。
醜いもの、絶望するもの、欲望を潜ませるもの…いつも周りには蝶が飛ぶ。
加えて人の死に群がるような様子を見ると、嫌悪感しか感じられない。
けれど、思い出してみたい。
「死」という不吉なイメージを漂わせて、ページ中飛び交い続ける蝶だが
「綺麗過ぎです。」
美しいのだ。
人間は意味も分からずその美しさに魅かれ、つい見つめてしまう。
愚かにも、と付け加えてもいいかもしれない。
心の底にある、全ての死への憧れのような、破滅願望の表れか。
それとも、もっと素直な美的嗜好と捉えるべきか。
それにしたって、死を魅力を感じていることには、間違いないのだけれど。
読者視点で読むから分かるだけで、登場キャラ本人にその気は全くないのが、また。
しかし、というか、だからこそ。
(クリック拡大)
綺麗だとこぼした女が、ラストで蝶を握りつぶしたのが印象的。
彼女の胸にあるのは希望だろうか、諦めだろうか。
前者だと思った人は残念。2ページ後にはそれを否定されるから、ガッカリするといい。
しかしこれは明らかな「選択」だ。何かを知って掴んだエンディングだ。
――――「君はもう 一生ここから出られないのに。」
そう女は告げる。
最後まで嫌なメッセージを叩きつけてくる漫画だなぁ。
逃げ場所もないこの世界で、人間はどう生きればいいのだろうか。
(上の女は、最終的には物語から脱出できているようにも思うが…)
加えて最強はこの言葉。
゛いつまでもお前の寝たふりが通用すると思うなよ"
絶望と向き合え。
強い意志を持て。
世界は永遠に終わらない。
いつまで見ないフリを続けるつもりだ。
嘘だ夢だ妄想だとごまかして、逃げんなよ。
ある意味僅かなメタフィクション的含みを持たせて、物語は幕を閉じる。
同時に醜い現実を突き付けて。
けれど一連のメッセージを受け取ってから、最後のページでひらめく蝶を見ると
「死」以外のイメージが、かすかに訪れるような気がする。
死を超越した、神の存在。
救いもせず見守るだけの、嫌な神様ですが。
そういえば。各話のインタールードで一羽でひらひら舞っていた1羽の蝶が
271ページでは2羽になっております。蝶=有江という証明か。
ここで終わってくれればよかったのに、エピローグであんなことになったから困るんだよなぁ。
鈴木が持っていた、魔法を閉じ込めた秘密の箱。魔法の箱
結局は同じ男をぐるぐると巡り続けているだけのように思う。
老齢になった自分から、ただ涙を流すだけの、幼き日の自分へ。
この物語の主人公の一人である鈴木君ですが、彼に限って言えば
彼の物語は、完全なる自己完結の世界でのお話でしかないということになる。
けれど、作中唯一と言ってもいい、希望をイメージさせるモチーフであるこの箱。
結局それを開けるシーンは一度も無かったけれど、
「一度だけ魔法を使える」というこの箱は
やはりこの最低な世界を抜け出す、たっ一つの道のようにも思う。
本当に魔法があるかはわからないけれど、その自己暗示で開ける道があるのかも。
けれど11話でのあの見開きが、箱を開けたということを意味するのなら。
結局この話は、終わりのないループだってことなんだろう。
ラストで、鈴木少年に鈴木じいさんが箱を渡す。
「箱を開けるかどうかは君の自由だ」
そしてこう続く。
「強い意志を持ちなさい。君の人生の行き先は、君が決めていいんだよ。」
この作品、各所でちょこちょこと「意思」というワードが入ってきます。
みんな口をそろえて「強い意志」を持て、と主人公に言っています。
けれど、最後まで読む面白いんだなぁこれが。
この作品における「強い意志」とは、必ずしも生を肯定するものではないのだ。
次の鈴木少年は、なにか世界を変えられるだろうか。
きっと、無理だ。
あと重要な要素として、蝶のペンダントってのがありますね。ペンダント
右翼と左翼、2つの蝶のペンダントが漫画にはたびたび登場し
それぞれが本当に様々なルートを辿っていきます。
2つの移動ルートを考察していくだけでも長い記事ができそうなくらいw
けれど巡り巡って、両翼はついに巡りあう。
ここが、この作品を締めくくるのにベストなタイミングだったと個人的には思います。
けれどこの先にエピローグへと続く。
さらなる混乱と絶望を呼ぶ、救いのないエピローグが。
しかしそのエピローグにも、また面白い仕掛けがあるのですね。
右のコマに注目。
本当にさらりと描かれているのが、完成系の蝶のペンダント。
作中で完成系のペンダントが登場するのはこのシーンだけです。
それを胸に下げているのは……なんてのは、読んできた人ならすぐ分かったであろう人物。
なーるほど、なんて軽く言えるものではないのですが
さらりと答えをここで出してくれているのです。
全てのルーツと言っても存在が、ついにここで明かされるのですね。
この狂った世界を作り上げたと言ってもいいその存在。
もちろん、これで全てを解決できたというわけでは決してないのですが
というか不可解な謎を残したままなのですが
それでも、本書で唯一と言っていいほど、爽快なシーンでした。
結論から言って、面白い漫画であるとは思えません。
ただ、ひたすら心に、薄く覆いかぶさるような不快感や、絶望や、その他もろもろのできれば味わいたくない沢山のリアルな感情が、べったり張り付いて取れなくなってしまう。
読んでいて本当に精神がやられてきそうな圧迫感、消失感、閉塞感。
これだけ嫌な読後感は、そうそう味わえるものではありません。
受け入れられるかは読者側の問題。
浅野いにおという漫画家の真髄を見たような感じ。
ダメな人は読みだして3分もせずに「勘弁してくれ」と投げ出すでしょう。
それだけ唯一無二の精神世界を紡いだ力作であると言えます。
ちょっと長くなってしまいましたが結論。
傑作。
これだけ濃密な作品を味わえるのは、幸せなことではないだろうか。
浅野いにおという作家が、漫画界に残した大きな傷痕だと思う。
もちろん、いい意味でだ。
『虹ヶ原ホログラフ』 ………★★★★
ホラーサスペンス×哲学。カッコつけて言うとキッチュな魅力のある作品。
呑みんでも呑みこまれても、危険です。メンタル弱い人には絶対お薦めできません。
読んでいる間、RADWIMPSのバグッバイが脳内で鳴っていたので
やや無理矢理感漂いますが、記事タイトルに歌詞を引用しました。
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