[漫画]恋のような魔法があるなら『あの子に優しい世界がいい』
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そんなもの 早く壊れてしまえばいい
あおのなち先生の作品集「あの子にやさしい世界がいい」の感想です。
商業誌に掲載されたものや同人誌で発表されたもの、計4作を収録。
先月に「あなたの世界で終わりたい」という作品集も発売されておりこちらも次回に更新するつもり。どちらもいい本です。いまイチオシ作家。
百合、BLなども含む魅惑的な人間関係を一冊。
アンドロイドと主人のイビツな主従、はたまたキラキラした魔法使いの世界。
かわいらしくいじらしく、時折こころ切り裂く切なさが込められた作品たちが広がります。
前作「あなたの世界で終わりたい」が吸血鬼や天使といったファンタジックなモチーフが目立ったことを考えると、あちらのダーク寄りな空気よりもさっぱりとした淡い光が感じられる内容。
それは表紙イラストの雰囲気にも現れているみたいに感じますね。
作品集ということで個別にざっくりと感想を書いていきます。
●「アンの庭」
アンドロイドだって夢を見る。
家族を失って機械仕掛の体となっている主人と、彼に拾われた欠落品と呼ばれるアンドロイドの女の子の物語。舞台はアンドロイドたちが普通に人間とおなじように心を持った世界。(少なくとも作中ではそう感じられる)
抜け殻となった孤独な主人に、暖かにお世話をするアンドロイド・アン。
けれど塞ぎこんだままの主人は、アンにたいして冷たく接し続けます。
この舞台においては、アンドロイドに対して「人間の真似事」「人間にとって都合がいい存在であり続けろ」といったような、あくまでも人間主体の主従関係であることは示されます。
主人が死んだらその後を追うアンドロイドだって居る。
アンドロイドというモチーフがそもそも好きなのですが、そこから浮かび上がる複雑な人間側の恐怖心だとか欲望だとか、心をもったアンドロイドが何を選択するかとか、この作品にもそれらのロマンはきっちり感じられます。
ストーリーが進むに従い、単なる主従ではなくオンリーワンな関係性に、それこそ『家族』としての温かみが得られていく家庭は熱くさせられます。
主人にしたって、おそらくだけど、廃棄処分寸前であったアンをわざわざ選んだのには
恩を売って、より必要とされる存在として自分を保ちたい欲求があったのか
もしくは孤独となった己の境遇が、廃棄処分とされるアンに重なったのか
いろいろと考えてみると楽しいですね。世界はまだ冷たい。けれど巡り巡っては彼はアンに救われた。
恋愛というより、家族モノ的要素も感じます。あとアンドロイドロマン。素敵。
アンドロイドだって夢を見る。あなたと一緒に泣いて笑って暮らす夢。
●「二人で明けて」
ボーイズラブ・・・とは言えかなりあっさり。まあね、これ単行本の編集百合姫ッスよ。
願わくばもっとディープに主人公らの気持ちを爆発させた様子も見てみたかった。
主人公の理想と現実が交じり合う構成も、より味わい深さを引き出す短編。
2編に分けて描写することで読者的にはグッと読みやすくなってます。
東京から越してきたクールな少年と、教室の隅でイラストをかく引っ込み思案な少年。
それぞれは作品内でお互いを慮った発言、モノローグを連発してくれるので、エンジンがあったまってきたところで発射される強烈な刹那的・セツナ的クライマックスの破壊力もマシマシである。
理想の世界を押し付けて、けれど臆病に手を離して、なのに今だって君を想う。
そうそう。後編を読んでから、彼のその「理想の世界」の体現である前編を読むと
さらにさらに感情が昂るので二度読み絶対だ。
世界は優しくないけれど、彼と彼をつなぐような神様を悪戯を予感させて、物語は幕を閉じるわけだ。
●「彼女の破片」
個人的には突き刺さるセンチメンタル度ナンバーワンの作品。傑作だ・・・!
『気持ち悪い』
それは誰の言葉だったか。開始3ページ目にして手向けられた、少女への嫌悪をめぐる物語。
構成もキャラクターの言動、演出、えぐるモノローグどれも完璧と言える完成度なので
なんかもうぐだぐだ感想を書くのもアホらしいなって思ってしまう。みんな読もう。
ふたりの女の子とひとりの男の子が複雑に絡みあった、奇妙かつ切なすぎる関係性にメロメロです。
さらりと読ませるタッチなのに内容はドロッドロに人間ドラマ。けれど青春。
どんな気持ちのうえでだって、どんな覚悟のうえでだって、必要として必要とされて寄り添えるならばそれでいいのではないだろうか。けれどこのエンディングは、彼女たちにも読者にも未来への覚悟を要求する。甘酸っぱいの一言では済まされない、傷つける覚悟は、傷つけられる覚悟はあるかと問うている。
ラスト3ページ、振りかざした手でその薄いガラスを砕くことはできたのだろうか。
あまりにも不格好、あまりにも拙い。だからとてもとても切実。
ヒリヒリとした痛ましさが胸に食い込んできて、窒息しそうになる。
大好きです。この短編。
コミックス最初のカラー口絵もこの作品のイラストなのですが、
微笑み寄り添う女の子ふたりを、優しく守るように包む男の掌。カッコよすぎる。
ガラスを砕かずとも、もしかしたら、その隔たりがふたりを安心させることもあるのかもしれない。
●「雨」「Aftrer the Fuchsia」
ラストを飾るのはポップなラブコメディー。
WEBで公開されたものと、単行本書き下ろしの2作で構成。
素直になりきれない魔法使いの女の子の、不器用なばかりの魔法使いの男の子の、
揃いも揃って歩み寄るのがヘタクソなくせに輝き眩しい恋模様。
すなおな気持ちで「カァ~~~っ!」と戸っ子テンションでニヤニヤしてしまった。
ヘヴィな「彼女の破片」の空気をいい意味で断ち切って、コミックスとしての雰囲気を支配している感じがある。
そして本編よりも未来を描いたかのようなこのカバーイラストの
つなぎあわせた手からあふれる花々が、卑怯なくらいに笑顔にさせてくれるのだ。
魔法のような恋があるなら、恋のような魔法があってもいい。それこそ掌から溢れるほどの幸せが。
作品で花が出てきたらとりあえず花言葉をしらべるマンなので「Fuchsia(フクシア」で調べてみた。http://hanakotoba-labo.com/28hu-hukusia.htm ウム。予感がする。
そんな短編集。かなりレベルの高い単行本です。絵もとにかくかわいいのに、ふと冷めたような表情をしたときのキャラクターたちの纏う空気も魅力的。
俺のコミティアヂカラがもりもりと膨れ上がったわけですよ。
嬉しいことに今年にもう一冊出るかもと作者さんも言ってる。今後も勢力的に描いてほしいなぁ・・!
『あの子に優しい世界がいい』・・・・・・・・・★★★★
あおのなち先生の単行本は今後出たら迷わず買えそう、ってくらいお気に入り。
いびつで微弱な心の振動が、ページから伝わってくるような表現力が凄い。特に「彼女の破片」。
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