[漫画]背筋ゾクゾク、脳はクラクラ、阿部共実の多彩なカオス『大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集』
大好きが虫はタダシくんの―阿部共実作品集 (少年チャンピオン・コミックス) (2013/01/08) 阿部 共実 商品詳細を見る |
最近どう?最近どうかって?
「空が灰色だから」4巻と同時に発売された、阿部共実さんの初作品集。
日本語がつながらない支離滅裂なタイトルの表題作「大好きが虫はタダシくんの」は、ネット上で騒がれていたこともあり、その時に知って読んだことがある人もいるのでは。
その表題作に加えて、様々な作品を収めた一冊です。
そして、阿部共実先生流の毒とユーモアとカオスが怒涛のように押し寄せる一冊でもあり。
それがどういう意味なのかは「空が灰色だから」読者は悟れる。まぁあんな感じです。クセが強いなぁ・・・どっちみち空灰も充分クセの強い作品なので、どうせ空灰ファンならチェックすべき。
描かれた時期はバラバラっぽいので、この作家さんの活動の軌跡をたどれる内容かも。
もともと「空が灰色だから」がオムニバス形式ですし、ファンはこの単行本も違和感なく楽しめるのではないかと思います。
まず冒頭のカラーページは、「空が灰色だから」のフルカラーエピソード。
単行本では収録されていなかったのでどうするんだろうなーと思っていましたが、この短編集に無事収録されました。
カラーであることを存分に生かした仕掛けの作品で、ニヤリとできます。
「ドラゴンスワロウ」はクールな燕ちゃんと、彼女のファンで後輩のたつみちゃんが主人公のショートコメディシリーズ。たつみの「たつ」と燕を合わせて「ドラゴンスワロウ」ですね。
たつみちゃんの超ハイテンションっぷりと、それを受け流しつつボケつつな燕ちゃんの組み合わせが楽しいですなー。
純粋に「かわいい!」「たのしい!」を満喫できるシリーズです。和む!
このシーンがとくに好き。シャボン玉に映り込む2人に、2人が囲まれる。
「2人だけの世界」ってのを象徴的に表した場面のように感じます。
この作品はメイン2人以外の出番はほぼないですし。
「破壊症候群」は少年チャンピオンでのレビュー作。
バカみたいなパワーを持って、ものの急所を見破る脅威の眼力まで持っている女子高生・凛。ものを壊すことが大好きだけど、壊すと怒られるので力をセーブする毎日。
しかし侵略者が街を襲ってきて、凛は思う存分にその腕をふるい「破壊症候群」である自分を満喫する、というお話。
人助けをする、という大義名分を得て行われるのは、とてもエゴイスティックな破壊行為。少女が気持ちよくなるために敵もビルも壊しまくる様子は、なんかわからないけどすごく高揚感も清々しさもある!
ザコ敵が蹴散らされ、空高く舞い上がっていくシーンはシュールだけどアツいw
「ゾクゾクする」という表現が、珍しく前向きな意味で使える漫画だった・・・!
そんな比較的、安全といえば安全なコメディ仕立ての作品群の連続しますが
単行本のラスト3作は、強烈に極悪。ある意味、ここからが本番か。
「あつい冬」は漫才をする女の子の2人のお話。
なんの説明もなく突然、片方の女の子が、泡になって消える。
ツッコミの女の子は、「なんでやねん」と1人でつっこみ続ける。泡になって消えたことを笑いにしようと頑張って、けして現実を受け入れない。
長いこと1人漫才を続けて、しかしついに彼女の心は折れて、崩れ落ちる。
ツッコミをしながらどんどん表情が歪んでいく女の子とか、見ているこっちの心が折れそうだ・・・。なんの説明もしない、この突き放したバッドエンド感、まさに阿部共実・・・。と思ってもこの傷はなかなかヘヴィーですわ。
「デタジル人間カラメ」は本当にゾワゾワした。言語感覚がガラガラと崩れていくような、溶けていくような、非常に不気味な作品。
まず話の筋があるようで無いのが辛い。狂人を描くのではなく、作品そのものが狂っているからどうしようもない。会話が繋がっているんだけどなにかズレているような感覚に、じょじょに違和感を感じたら、ラストではそれが確信に変わる。勘違いなんかじゃない、漫画としての未熟さでもない、明らかに意図されたズレとカオス。
このシーンとかヤバい。意味がわからない。ただ恐ろしい世界を感じる。
次の表題作「タダシくん」もインパクトある作品ですが、
正直言ってこの「デタジル人間カラメ」も違うベクトルで頭がおかしくなりそうな、
阿部共実エッセンスの濃厚な部分をすくい取った怪作でしょう。
むしろストーリーが成立している分、まだ「タダシくん」のほうが親切。「タダシくん」はそのストーリーに超ド級の毒がもられているので、結局どっちも地獄なんだけれど。
そして「大好きは虫がタダシくんの」は、なかなか語る言葉が見つからない。
うまくコミュニケーションがとれない少女の悲劇を描いたお話。
以前Pixivでアップされた短編なのですが、それがまだ読めます。
会話がうまくできない、それだけで途方もなく傷つく少女。
ここまで病んでいなくても、うまく会話ができなくて変な場の空気にしてしまった経験は何度も自分にあって、その時の申し訳なさやら死にたさやらが一気にフラッシュバックしてきて息が詰まった。
漫画のエンタメ性なんてここにはなくて、ただ目を背けたくなるだけです。個人のトラウマをめっちゃくちゃにエグってくるし、ストーリーとしても救いがなさすぎる。
ずっと同じ表情のまま、冷や汗ダラダラながして、涙をボロボロこぼして・・・。
1人になっても、親友からもらった言葉をただ繰り返す。壊れた機械ように、ただ繰り返して、どこかへ歩いて去っていく。そんなラスト。
こうして感想書くために読み返していても、この悲劇には頭がクラクラする。人によっては読むことを拒絶するだろうこれは。それほどまでに強烈。
しばらく封印しておきたい作品だけど、一度読んだらきっと脳にこびりついて忘れられない。トラウマ量産漫画なんじゃないかこれは・・・。怖すぎる。
「大好きが虫はタダシくんの」の感想でした。
コメディからホラー、悲劇、説明もできない不気味な作品まで。
「空が灰色だから」が好きならば、ぜひ読むべき一冊になっていると思います。エッジの効いた作品が揃っています。
でもそれは「あなたも同じ傷を負うましょうや」というクズいオススメの仕方なので、やっぱり人にはあまりオススメしたくない(結局どっちだよ)
「空が灰色だから」と同様に、人を選ぶ漫画。でも「こういう漫画もあるんだ」ってのを知らしめるためにも意味ある漫画。「デタジル人間カラメ」「大好きが虫はタダシくんの」あたりは、少年漫画として出版されるのはどう考えてもおかしい。でも「空が灰色だから」がまず出たわけだしな・・・。出たからには、やはりいろんな人に読んでもらいたいなぁと、思ってしまうのです。こんな刺激的で禍々しい漫画だとしても。
『大好きが虫はタダシくんの 阿部共実作品集』・・・・・・・・・・★★★★
読む人になにかを残す、という点ではものすごいパワーを持った作品。阿部共実先生のディープな世界をさらに知ることができる一冊、かも。
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