[漫画]恋は味わいの坩堝。『楽園 Le Paradis』 第10号
楽園 Le Paradis 第10号 (2012/10/31) 中村 明日美子、シギサワ カヤ 他 商品詳細を見る |
うん またね 今日も会えるね
恋愛アンソロジー「楽園」Vol.10が発売されました。アンソロジーですがもう雑誌ですね。しばらく感想をかけていませんでしたが、せっかく記念すべき第10号目です。スルーするのはもったいない!ってことで久しぶりの楽園記事です。
しかし1号が出てからもう3年が経ったのか・・・。地元の書店で表紙をみてビビッと来て、そのままレジに持っていったものです。あの表紙カッコ良かったんだ。
表紙といえば今回の表紙も素晴らしい。上下が白と黒でパキッと分かれていて強いコントラスト。純白のはずのドレスも、影に染まっている。そしてそれを身にまとう女の怪しい雰囲気。自分の中でストーリーが出来上がっていきます・・・いいなぁ。
では内容の感想へ。
特に気に入った作品ごとに個別で書いていきます。楽園作品語りはほかにも「楽園に花束を」という同人誌がありましてね・・・(ちらっとブログ右上に視線を向ける)
「ゼッタイドンカン」を終えて、今回からの新シリーズ。そして1話の段階では、楽園掲載のこれまでの2作よりもっと好きになれそうな予感がヒシヒシと。こうかん法則/宇仁田ゆみ
もともとカップルだった2組の男女。しかしいつの間にやら気持ちは動いて、結果的にパートナーを取り替えてしまうというお話。
人間の心なんてあやふやなものだ。だって心が移ってしまったのだから。倫理だ道徳だという話は別として、そういう理不尽に周囲を傷つける性質を、どうしても恋愛も持ってしまうものなのかもしれない。いや俺は知らないけど、たぶんそんな感じ。(台無し)
彼女に振られたショックを引きずる主人公。だけど次第に気持ちが変わる。あてつけのように付き合ったら新しい彼女も同じ。仕返しのためにはじまった偽物の恋が本物になっていく様子が、軽やかにステップを踏むように展開されていく。心地いい空気が満たされているなぁ。
これは慰めではなくて、前向きで本気の恋なんだ。
そして相手が変われば違った世界も見えてきて、新鮮な喜びが身体に流れ込んでくる感じ。ううん、これは次以降も期待したいです。もしかして今後はもう片方のカップルの話も混じったり、ちょっと修羅場ったりするんだろうか!とまぁ色々と妄想が膨らむ設定の新シリーズ!
別作品ですが同じ仙石先生の作品なので一緒に。真昼の果て・夜毎の指先/仙谷寛子
「真昼の果」が軽いBL、「夜毎の指先」が姉弟の近親モノ。
なんかどちらも後ろ暗いというか、仙石先生おなじみの空気のまとった作品ですよ。
でまぁこれが全然話は進まないったら。それがいいんです。どうしようどうしようって堂々巡りの苦悩に支配されているのが好きなんだ・・・!
ノーマルな恋ではない、世間からはきっとよくは見られない。むしろ認められないはずの想い。いつまでたっても正解にたどり着けない。
今回の「真昼の果て」に登場するかわいそうな片思い少女のセリフが良かったな。
「そうよ、私は女だから、今はそうじゃなくても付き合ううちにいつか、好きになってくれるんじゃないかって期待したのよ」という。「女だから」という当然の、しかし卑怯にも感じられる言い分。
けれどその期待は報われることは無さそうなのが・・・。「真昼」は男キャラが女々しくてじれったい分、相対的にこの女の子の男前度が上がっている気がする。彼女も本当は弱いと思うんだけど、メイン2人がナイーヴでな・・・!
「夜毎の指先」はラストにテンション上がるも、やっぱりため息つきたくなる内容・・・。
もたもた、行ったり来たり、でも欲しがりな心はうずくまま。
うひょおおォォォォ!ラブコメ的に興奮の絶頂に導いてくれる「マイディア」ですが今回が最終回。マイディア/かずまこを
前回がかなり暗い内容だったのでどうなるかと思いましたがうまいこと落ちつきました。というか穏やかながらにすばらしい盛り上がりをしており、満面の笑みで読み終えることができましたねぇ・・・!!
恋人2人の想いがただしく真正面からぶつかって溶けてわぁいニヤニヤする!
なんでも抱え込んで1人で解決させようとさせて、限界を向けた成田。様々なトラブルがしずかに解消されていく様子はふっと緊張がほぐれていく感じでほんわか。そのまま恋人との仲直りとイチャコラが始まってダブルほんわか。やさしくしかしギュッと固くつながる2人の距離感に怒涛のごとくテンションが急上昇し最悪の場合死に至る(もう懐かしいネタ)
いやぁ、最終回らしいいい盛り上がりを楽しめて満足満足。
初々しい2人をニヤニヤ眺める漫画ですが、今回のクライマックスは夫婦のような安定感だな。
しかしなるほど、やはり成田先輩はヒロインだったのか。楽園の裏表紙とか紹介イラストでも、睦子ちゃんを差しおいていっつも成田先輩のピンだったし、納得だ、うん。
単行本化の際には描き下ろし漫画にも注目したい。前身作「マイディア」で単行本に書き下ろされたオマケ漫画の圧倒的破壊力を思い出せッ・・・!
次もかずまこを先生は楽園に執筆されるようで、○○ティアシリーズの続編が来たりするのだろうか。読みたいなぁ。でも新作も読みたいしな、WEB楽園でやってる方も楽しみだし、どうしよう。
エロ漫画じゃねーか!(パァン彼女達の最終定理/大月悠祐子
と叫ばざるをえない、ド直球エロスを投げ込んできているシリーズ。
前回はまだどうなるか分からない部分もありましたが、なんですか今回は!ヒドい!遠慮なしだよ!本気でエロすぎる。
完結した思春期男女の恋愛オムニバス作品「妄想少年観測少女」にも、寸止めエロやら「あーこりゃこの後ヤッたな」と想像するに難くないセクシーな描写やらはいくつもありました。
そこはほら、一般誌だし、見せない美学というのがあるじゃないですか。と自分を納得させていましたがごめんなさい正直見たかったですエロいシーンが!興奮に上気する表情が!溢れ滴るいろんな体液が!精神も肉体も極限のとこにいく高揚が!見たかったんだ!
・・・それが全部この「彼女達の最終定理」でやってます。ビックリの白モヤの多さだよ!
大月さんの描く「表情」はとても素敵だな・・・改めて思いました。
主人公の少年の虜になっていく2人の女。女教師と女生徒。
それぞれに魅力がある女性キャラクターなのですが、その表情が素晴らしいんです。
扇情的で、普段は見られない獣じみたムードがあって、けれどどこか気品がある。
この扉絵好きだなぁ。
女たちに触れている腕は本編では少年のものだけれど、この黒い腕は少年にも触れている。
この黒い腕は欲望そのものなのかもな。男も女もみんな絡みとられている。
ストーリーとしての動きはそんなになかったですが、両ヒロインとの性的接触が増したことで、さらに関係の泥沼化が進んだ様子。いずれ両ヒロインがかちあうことになりそう。
何してんですか木尾先生。Spotted Flower/木尾士目
いやそれはこの作品において今に始まったことではないツッコミではありますが、改めて
何してんですか木尾先生!
どこぞの現代視覚文化研究会のメンバーっぽいキャラが登場する本作。
今回の新キャラはコミフェス好きでどうやらコスプレ趣味もある巨乳さん(二児の母)だぁー!
ってオイ!!
いかん、クラクラする。すごいものを読んだ気がするぞ。でもすごく楽しい・・・ナ!
奥さん同士で育児の話からはじまり、夫婦生活の話題にうつり・・・。
女同士の、かなり赤裸々な本音が読めるエピソードでした。まさに赤裸々。
ゲストの「女が本気で誘惑して落ちない男なんていないですよね…?」と言ったトロンと怪しい目つきにブルブルしてしまうなー・・・そして言われて恥じらう奥さん。
こういう面では大野さんが何枚かうわてなんだなー・・・あ違う大野さん違う。
で不満を言ってるはずが最後にはノロケになってるあたり、流石はこの夫婦はお熱いことで。
色々と物語の裏側を探りたくなる作品ですけど、それはちょいと野暮というもの。
いいんですよアフタヌーンであれだけ見せつけられたら、気持ちもサッパリしました。
だから今度からは割り切って、自然な気持ちでこの作品を読めるかな。
・・・と思ったら今回の新キャラ登場で「もう!!!」ってなったという。
木尾士目先生には心ゆさぶられっぱなしです。
エロ漫画じゃねーか!(二度目ユエラオ/黒咲練導
きましたねー。黒咲先生らしい、ネチッこくハードでマニアックなエロスが炸裂。
おとなしい女子高生を、言葉責めに緊縛、揉んで踏みつけ舐めてのやりたい放題。
散々アレコレやっておいて、最後のページだけで「イイハナシダナー」感をかもすのも面白い。
ちょっとだらしない女体のもっちり感が溢れて出ていて、ストレートなリビドーが込められていますねえ。骨ばったスリムな女性も描かれますが、どちらも少しクセがありつつもそれが魅力的。
暴力的なまでに性衝動があり、しかし清らかに結びつく少女同士の恋があり・・・
淫靡なムードたっぷりに魅せてくれる作品でした。美味。
水谷フーカ「14歳の恋」中村明日美子「日曜日」シリーズ、竹宮ジン「想いの欠片」などなど、続き物の作品もますますおいしくなってきました。ニヤニヤするよね、相変わらず。
シギサワカヤ「お前は俺を殺す気か」はなかなか先が読めずに混沌としています。
ほかにも語りたい作品だらけなんですけど、追いつかなくなってしまいそうなのでこの辺で。
10号目ともなると一冊の本としての安定感・安心感というのも研ぎ澄まされてきてるなぁ。
甘味も、苦味も、酸味も、毒さえ一緒に味わえる極上スイーツ。
いろんなタイプの作品が一堂に会して、一口に恋愛をテーマにしていると言っても、その内容や方向性はさまざま。まったり読み込みたい本になっています。ゆとりを持って読みたいな。
ここにきてなにげに作家の入れ替わりも起きていて、まだまだ変化していく雑誌。
また4ヵ月後としばらく待つのが歯がゆいですが、スローペースだからこそ味わい深い面も間違いなくある。次からの新しい作家さんも楽しみだし、買い続けたいですね。
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