[漫画]明けない夜が明けるまで。『昇る朝日にくちづけを』
昇る朝日にくちづけを (ヤングジャンプコミックス) (2014/08/20) TNSK 商品詳細を見る |
傷くらい… くれたっていいじゃない
「昇る朝日にくちづけを」
このタイトルが添えられて、心洗われる透明感あふれる色彩の表紙イラスト。
いやちょっとこの表紙デザインが好きすぎて、これだけで買ってよかったと思えるレベルに達している。
けれど作品集として、本編の漫画も面白いのです。
集英社ヤングジャンプ増刊のアオハル(増刊ではあるもののヤンジャン感薄い雑誌だった)に掲載された作品を主に収録した短篇集。表題作なんかはWEBのアオハルオンラインに掲載されたもの。
すべて恋愛がテーマの作品となっていますが、どれもこれも真っ青な空とかがまるで似合わない。
光が薄くて束縛されていて、正直言ってちょっと暗い作品群。でもこういうのが好きなんですよ。心の性感帯、感じちゃうね( ポルノグラフィティ)
きっと作者の好きな世界が詰め込まれてるんだなということが強く感じられる
インモラルな空気にロマンチックな灯を感じてしまう、素敵な一冊なのです。
あと舞台が山中や漁村で、それを活かした“田舎感”がストーリーにも組み込まれているのもいいですね。
「忘月夏」
大切な女性を失ってしまった主人公。里帰りして迎えてくれたのは、その女性の妹。
その田舎の町には不思議な祭りがあるのです。
「笠成祭」。お面をかぶって村を歩くというその祭りでは、ひっそりと死者が紛れ込むという話。
最初からねじくれた、しかし素直な感情が炸裂している作品。
死んだ者に会いたい。そして、代わりでもいいから愛されたい。
男女のいびつな感情が絡み合い、祭りの夜、それは結ばれる。
つまりはそういうことなのだと、もう「私は夏子姉ちゃんの代わりなんじゃ」と「少し 酒の臭いがした」でお察し。
けれどふたりとも、相手がどういうつもりなのかを知った上で、わざと騙されながらもつれ込んでいく。あのおぞましい見開きページにはきっと結ばれても果たされない、怨念じみた少女の無念があるのだろうな。
だから最後に「いつか・・・ 私に 会いに来て」と、自分の存在を求めてもらえるよう願う。切実な気持ちにグッとくるが、主人公といつまでも仮面をかぶって祭りに乗じた夏の夜を毎年送ってもらうのもいいぞ!
田舎の風習はなんか不気味さがよく出ていて好き。ってのと、どことなく気持ちが晴れない、けれどセンチメンタルが胸を刺す、作家とこの単行本の挨拶代わりとなるオープニングストーリー。
「笠成祭」は「かさなり」と読む。誰かに誰かを重ねてしまいたい、歪んだ夢を叶えてしまう夜。
●「鬼火の夜」
まーた山か!そして寂れた町!好きだな!俺も好きだ!
田舎町を舞台にブラコン姉とシスコン弟が織りなすお話。
なんとも先が見えないというか、じっとりと息が詰まる閉塞感があり、まさしく残念なタイプの田舎風情が出ていて良い。「鬼火」というモチーフにしたって、美しくもあるが災いをもたらす、非常に危うい臭いが感じられている。
弟のため。と自分の人生を、その可能性をすり潰しながら日々を生きる姉。弟はそんな姉を心配しつつも奔放に、自分の行き方を探す。
「いつかどんな大人になるだろうか」「どんなことを成せるだろうか」
そんな、将来への期待や不安といった思春期のきらめきも、明るい予感をそれほど与えてくれないのが本作の残酷さであり、好きなポイントです。
本作のクライマックスでは本当に、心をグッサリをやられてしまいました。これは是非読んでいただきたい。
近親相姦という禁断のシチュエーションを描く上で、個人的にはかなり理想的な距離感に帰結してくれた!
互いが互いの夢として、きっとこの田舎で生きていってほしい。そんな姉弟。
●「昇る朝日にくちづけを」
表題作。そして舞台は海!でもやっぱり町は田舎だ!
3部作構成となっており、1話目が過去にあった悲劇の話。身分差の恋。
2話と3話が前後編。現代を舞台に女教師と男子学生の激燃えカップル。
第一話、黎明編はこの物語を結びつける1人の漁師のはじまりの物語。明けない夜のはじまりなのだ。
幼なじみは権力者の元へ嫁に行った。歯痒くも無力感に苛まれる主人公だったが、少女の結婚には裏があったのです。
現代編に移ると彼がたどった人生がほんのりをかいま見えるのですが、素晴らしく気高い生き方をしたのだと、涙が出そうになる。
そしてこの黎明編が、後半の現代編への最高の助走になっているんですよね。そのためのこの構成とは言えキレイにはまってる。
現代編は、女教師と男子高校生へと主役が移る。
ヒロインであるあかり先生は過去の悲劇から、いまは結構ドライな性格をしている。
そんな彼女が潤いを取り戻していく様がめちゃくちゃかわいいんですよね・・・。
大人の女性が少女に戻る瞬間のような、そういう輝きが好き。
ラストはとても爽やかで、とてもニヤニヤさせてくれる・・・!
「私を連れて 逃げてくれる?」
あかり先生が言うこの言葉には、諦めていた未来への期待とか罪悪の感触とか、目の前の幸福をうまく受け止めきれていない戸惑いとか、いろんな感情が混ぜこぜになっていて大好きです。名場面。今年の「この女教師がかわいい!」にノミネート間違いないですね。
それだけでなく、この作品にこそ作者が込めたいメッセージが強く出ている気がする。
記録に残ろうが記憶に残らまいが、その場所にその大地には確かに過去、だれかが存在して、様々な想いを巡らせ生きて物語を紡いできた。
「昇る朝日にくちづけを」では迎えられたひとつの結末が、時空を超えて2組の男女のハッピーエンドを感じさせてくれます。
死んでも、消えても、だれかの想いはずっと「そこ」にある。
あとがきにあった言葉がきちんとストーリーに落とし込まれていました。
絵柄のポップさのおかげで読みやすいですが、内容はどれもこれもインモラル風味。
でもこのほんのりジメッとした雰囲気が最高に好みだったりします。
女の子もかわいいしね!
そしてちょっとした遺跡ロマンの似た、寂れた田舎ロマン。愛を感じます。
自分が住んでる所もど田舎という程ではないにしろ都会ではなく
この作品から感じられる空気は、すこし親近感のあるものです。
仄暗い。明けない夜に閉じ込められたような窮屈さ。
だからこそ、昇る朝日の眩しさにちょっと涙ぐんでしまう。
光を待ち続ける、光を待ち続けていた人々の物語。
『昇る朝日にくちずづけを』 ・・・・・・・・・★★★★
アオハル発コミックス。ポップでダークなセンチメンタル短篇集。