[漫画]星がつなぐ、光が刻む、ふたりの宇宙。『スピカ The twin STARS of ”きみのカケラ”』
スピカ The twin STARS of ”きみのカケラ” (少年サンデーコミックススペシャル) (2013/08/16) 高橋 しん 商品詳細を見る |
あの日においてきた、幼い私達の、小さな星。
定期的に高橋しん成分を摂取しないとつらい体です。
高橋しんさんの新作コミックス「スピカ the twin STARS of “きみのカケラ”」が発売されたので感想を。
今回も装丁が素晴らしいです。さわってみるとわかりますが、散らばった光に指で触れられる美しいデザインとなっています。
ちょっと値が張るコミックスですが、この装丁の質もそうだし、中もカラーページ豊富だし、不満はありませんね。
本作は前に少年サンデーに連載されたファンタジー漫画「きみのカケラ」の双子のようなポジションとのこと。
テーマ的に連なる部分も多く、きみのカケラを知っているとニヤッとできる小ネタが。
とは言え完全に独立した作品集なので、知らない人でも全然大丈夫。
「きみのカケラ」の双子であることに加えて、星をめぐる2つの物語を収めた作品でもあります。そういう意味でも双子ってことですね。ツインスターズ。
高橋しん先生の過去の単行本の感想とか↓
夢見た世界で、永遠の太陽は輝く。『きみのカケラ』9巻
あの夏のヒミツ、おぼえていますか? 『SEASONS~なつのひかりの~』
喋れない少女とエスパー少年『雪にツバサ』1巻
終末のそばに儚い日常はある。『花と奥たん』2巻
ふたつの作品を個別に。
これは明らかに「きみのカケラ」の世界を引き継いだ、あれから遠い未来のお話。あのぬいぐるみキャラもいたり…。●スピカ-ふたりの銀のつばさ-
でも世界の雰囲気なんかはガラリと変わっていて、まったく新しいものとして楽しめる。「きみのカケラ」を読んでいたら、この暖かくなったこの世界の風景を見てにっこりできます。
加えてネタバレになりそうですが、展開も…。
この星に宇宙燈台が輝いていたのも今は昔。灯を失ってしまった星と鍛冶屋の少女。そんな彼女の前に落っこちてきた、どこかの宇宙で戦争をやっているらしいロボットの少年兵。
人間の少女と機械兵の少年。そんなボーイミーツガールは、星の希望を照らしだすまで話のスケールを膨らませます。
必死にそれぞれの目指すものに手を伸ばす。美しいものを求める。
苦しい境遇に立たされる二人の主人公ですが、その運命の中で奮闘する姿がなんとも健気であり、幸福を願わざるをえない。
個人的に名シーンだと思ったのが、女の子がボロボロ涙をこぼして料理をムシャムシャ食べる場面。
家族のぬくもりに飢えていた少女の感動が全開になってますね。なんて高揚感のある食事だろうか…!
高橋しん先生は近年食事シーンに気合が入っていますね。人の繋がりや生命の営みとしての食事って側面を強調する描き方をしていて好きですねえ。
面白いのがこれは意図的に、少年と少女の名前が出てこないこと。
お伽話に出てくる人物には名前が無いことも多いですよね。動物の名前そのままだったり、またはたんに男の子とか、女の子とか。名前が出てこないのはそういう意味なのかもしれない。
きっとこのお話は、後のこの世界に残るお伽話のようなものになる。
または二人はスピカになったからって事なのかもしれない。
真っ暗な場所にでも寄り添って離れない、春に見える2つ星。
白くく青く濃い光が降り注ぐラストシーンの感慨深さは、やはり好いものです。
いいねぇ!なんとも言えない、切ない匂いと透き通った空気を感じる青春…!●スピカ-放課後のちいさな星-
なんだか久しぶりな気がする。ありふれた高校生たちの疾走感のある青い漫画。
高橋しん先生的にはだいぶ平和な作品だったと思うけど、こういうの最近少ない気がするんだよな。
部活の約束をすっぽかして、女の子と男の子がふたりで思い出の場所を目指す。
そこで星を見ようと、バカみたいに心を高揚させて、果てに向かう。
見えないものを見ようとして!望遠鏡を覗きこんだ!!
ワクワクして切なくなって、懐かしさすらもやってくる。
短編としてのまとまりの良さといいテーマといい、とても完成度の高い作品だったと思います。
澄んだ夜空を眺める。その時間に余計な言葉は野暮だよねって感じでもう、甘酸っぱさがガッツリ心に染み渡りますよ…。
「ばかだね。お前。女の話はただうなづいて聞くもんだ。」
とかいちいちいい雰囲気にいい言葉が飛び出すんですよ。カラーページの使い方も豪華。カラーを有意義に感じられるという意味で過去の高橋しん作品でもトップクラスなのでは。
黒い暗い、遠くの宇宙に、いろんな色の星が美しく散らばっている絵は、カラーで見れなきゃ損でしたよ。
青春の香りを色濃く感じられる物語には、青春らしい喪失感と傷が織り込まれています。
それはもう、がむしゃらに闇雲に、不安を振り解くために、少女は星を見つけようとする。
でも星はいつでも見れるわけない。時間はもちろん、季節が重要になる。
どんなに欲しがっても、大切なものがいつでも見つけられるわけではない。
天体観測が少年の少女のドラマにシンクロしており、これもお見事。
そしてなんといってもモチーフが「スピカ」って所で〆もバッチリなのです。
本当にそのまますぎるけど、BUMPの天体観測流しながら読むと、胸キュン指数がさらに上がるよ!
個人的にこれ、新海監督に30分くらいで映像化して欲しいんですけど。うん、キラキラ着色系作家繋がりで発想が安直です。
あと小ネタでしょうけど、冒頭のカラーページの制服の冬服、これって最終兵器彼女の制服と一緒じゃないですか!アホ!
そんな「スピカ the twin STARS of “きみのカケラ”」でした。
スピカ2作に加え、単行本のラストにはあの有名な宮沢賢治の童話をリミックスした感じの漫画も収録されており、これも良い。これは「きみのカケラ」最終巻のあとがきにあったものですね。
基本的に高橋しん先生の作品は健気キャラが最強なんですけど、今回の作品はそれがなんらブレないまま爽快さとなって読者に届けられている感じがします。
なにげにクセの強い作家さんだと思うんですけれど、これは読みやすいな。
入門の一冊としてもいいかもしれない。
一冊トータルで、宇宙への憧れがパッケージされている気がします。
星空を見上げるときの、あの寂しかったり清らかだったり熱くなったり怖くなったりするフワフワした感覚が詰まっていて、とても気持よく感情を揺さぶられる。
恋愛よりいっぽ手前の、でも恋に勝るとも劣らない、遠い祈りの関係。
もどかしいですが、この距離感がいい!
発売されたタイミングも完璧でした。
夏に読みたい、爽やかなときめきをくれる作品集。
『スピカ the twin STARS of “きみのカケラ”』 ・・・・・・・・・★★★★☆
「どうかあなたに」と祈る人たちのまっすぐさ、心をキラキラに澄んだ状態にしてもらえます。
ところでそろそろ最終兵器彼女の文庫版とか新装版とか出ませんかね?
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