[漫画]大地とともに生きる。『銀の匙 Silver Spoon』2巻
銀の匙 Silver Spoon 2 (少年サンデーコミックス) (2011/12/14) 荒川 弘 商品詳細を見る |
君の人生は教科書に全部書いてあんのかい?
少年サンデーにて連載中「銀の匙 Silver Spoon」2巻です。
都会育ちの主人公が、北海道の農業高校にやってきてからの悪戦苦闘を描く作品。
2巻では季節を春から夏へ移し、さらに作品のメッセージ性を強めたと思います。
今回の表紙は御影アキ。生き物や自然と人がともにあるのが印象的。
1巻ではまるっと「農業高校」という舞台を面白おかしく(でも全部本当のことなので、都会育ちの八軒の持つ常識とのギャップが面白いということ)紹介していく流れでした。
バカみたいに広い学校の敷地面積に代表される、常識外な学校環境。すぐ身近にいる様々な動物たち。自然の壮大さと力強さ、などなど。そこは楽しいだけではない、リアルな迫力のある世界。
まぁリアルっていうか本物の北海道が舞台で、荒川先生が自身の経験をもとにした部分が大きい作品なのでリアルで当然というか、本物そのものなんでしょう。
そんなオープニングとしての「春の巻」のクライマックスが、この2巻の前半。
偶然見つかった窯を再利用し、みんなでピザを焼くのです!
「本当に美味いもの食べた時って、笑いしか出ないんだな」
みんなで大笑いしながら焼きたてピザを味わうシーンは、こちらも幸せな気持ちにw
そしてこれは、八軒が起こした行動による初めての「大きな成果」。
最初はちょっと馴染めなかった彼が、新たな仲間たちとはしゃいで笑って。
八軒はいわばプロデュースを担当したわけですが、ピザの材料をすべて校内のものにしようと色々調べて回ったり、協力を依頼していく中で絆を深めて行ったり、それらはエゾノーの空気を自分自身に取り込んでいっていくような流れに感じました。
彼の変化や成長を表した、満足度の高い締めくくりだったと思います。
なんといってもピザが美味そう!
そして11話からは「夏の章」へ。そしてこれがまた面白い。
夏休みに入り、寮で過ごすことができなくなってしまった八軒は、実家が農家でないために、労働力(助っ人)としてクラスメイトたちから大人気。
しかしそんなことは知らぬままに、御影アキの実家にお世話になることになるのでした。
それは彼にとって初めてのアルバイト(住み込み)。
好きな女の子と一つ屋根の下でわほほーいとかそんなのじゃなく、ややヘヴィーな展開がされます。働くことの大変さや、自然と生きるという心構えを学んでいく内容となっていました。
まず、特に八軒が野生のシカを解体するシーンがとても印象的でした。
覚悟を決め、ちょっとビクビクしながらも真面目に解体していく。
彼はもともと農業に親しんできた男の子ではないですから、当然いまのいままで生きていた生命を食べるために解体するなんてはじめての作業。
最初は拒絶反応を示しますが、「自分は働くためにここにいるのだ」という意識で自分の中の壁を乗り越えたのでした。
振るいだした勇気は、この直前での駒場一郎とのやりとりもまた影響していたのでしう。
しっかりとした夢を持ちながら将来を見据えている彼に刺激を受け、「自分もなにかしなければ」という思いが芽生えていたことは確かです。
そういうもろもろを踏まえてのあの解体シーン。八軒の努力が微笑ましい。
しかし微笑ましいとは言っても、やっていることはとても生々しいことです。
漫画としてエンターティメントに落とし込んでいますが、全く抵抗がないわけではないです、こういうシーンは。この人たちワイルドすぎるだろうと。でもこういう世界もあるのだ。
動物を食べて人は生きているんだ、ということをすごく強調してくる作品で、ある意味それは犠牲の上にしか成り立っていない、我々のシビアな現実を思い出させてくる。
読者は何も知らない八軒に自分を重ねるかと思いますが、ストーリーの進行に伴って命の重みや、普段意識することも少ないであろう自然界の循環の真実を読者にぶつけてくる作品でもあるよなぁと。
でもそういうのが説教臭くなっていないのも、上手いんですよね。
前作ハガレンはファンタジーでしたが、今作は現実が舞台で、感じる空気もやはり違う。
加えてやたらと主人公の思い悩む姿もリアル。
将来なんて分からない、自分が何をできるのかもわからない、切実な悩み。
それは自分自身と重なる部分が少なからずあったりして、胸がザワつくのです。
でもそういうのも含めて、荒川弘先生の描く人間がリアルということなのかも。
自然の只中で生きる人間たちが織り成す世界観と、思い悩む思春期の少年像。この作品は自分へ真に迫ってくるのは、優しいだけじゃないモノを見せてくれるからでしょうか。
生命の誕生の瞬間、八軒が口にしたリアルな感想「グロい」。
感動したとかじゃないんかいwと笑ってしまいましたけど、こういうところも好きで。
押し付けがましい感動はない。泥臭く生きてこそ自然であり、生き物なのだ。
ありきたりに「美しい」「かわいい」だけが生き物がないんだぜ、ということか。
そんなこんなで「銀の匙 Silver Spoon」2巻でした。
個人的に1巻も面白かったのですが、更にこの作品らしさが強かった気がして好きです。
あっけらかんとしているようで、残酷とも取れる現実の厳しさを突きつけ、そこに立ち向かって生きる人間の力強さを見せてくれる作品だと思います。
とはいえそうヘヴィーなばかりではなく、ちょっと珍しいタイプの学校を舞台にしたコメディとしても充分な面白さがあるのです!
んでもって、なかなか知ることのできない農業の現場やその最新技術を垣間見ることができたり、新鮮な発見をすることができる内容でもあり。
ウンチクに関しては、「百姓貴族」でも描かれたものがいくつかありますが。
そういえば今度「百姓貴族」2巻が出るみたいですね。久しぶりなので楽しみです。
個人的には荒川弘先生の現代を舞台にした作品もちょっと読んでみたいなと、ハガレンやってる時からこそこそ思っていたのですが、こうして叶ってみるとやっぱり面白いですなと。
ハガレンから同じことは、オヤジキャラ格好いいなってことか!
自然の中でいきるじいちゃんのこの一言には、思わず背筋が伸びる思い。
第3巻は春頃発売予定とのこと。サンデーでも読みますが、楽しみです。
『銀の匙 Silver Spoon』2巻 ・・・・・・・・・★★★★
ちゃんと青春してるなぁと感じる漫画。優しくも厳しくもある、リアルな世界。
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